中村一義 : 金字塔

ARTIST / 中村一義
TITLE / 金字塔
LABEL / Mercury
DATE / 1997
TITLE / 金字塔
LABEL / Mercury
DATE / 1997
例えば、この盤に出会わなかった自分を想像してみる。そんなことは不可能だ。結局、僕はこの盤に出会い、この盤に出会うことで僕になったのだから。彼の音楽に触れて、僕は音楽を作り始めた。正確に言うと、それまで作っていた300曲近い楽譜の一切を捨てて、「うた」を作ることを始めた。歌詞を書き、歌を歌い、テープレーコーダーからやり直した。世紀が終わろうとするあの時代に、こんなにも馬鹿げていて、世間擦れし、恥知らずで、単純に時代遅れなことがあるだろうか。そのみすぼらしいことに、僕は精神のすべてをかけていたのだ。しかし、創作は想像力を鍛え、言葉を錬磨し、美学を目覚めさせた。意志は探究心を伸ばし、思考を発見し、希望を育てた。才能はもとより、知力もなく、体力すら無く、運も、人を惹き付ける魅力も無い自分が、それでも自分は何かを「作れる」と信じ、何かしらの「肯定」の力を持つことができたのは、この盤に出会ったからに他ならない。しかし、結局、僕はどこにもいけなかった。何も残すことはできなかった。それでも、僕は僕という作品を作ることができた。それは他の何にも代え難いことだ。結局、この盤は、出会った最初の瞬間から、15年間も同じことを語りかけているのだ。夢など無くてもいい、やりたいことなど分からなくてもいい、無気力で何に対してもやる気が起きなくても構わない。努力は報われないし、結果は出ないし、世の中は依然として不平等で、あなたの大切な人の好きな人は君じゃない。でも、ただひとつ、自分という作品の主人公であることはやめないで欲しい。そして、自分という作品を作りつづけてほしい。あなたの人生の作者は、誰でもない、あなた自身なのだ、と。その時、僕はいつもこう答える。ありがとう、あなたに出会えて、僕の人生はバラ色に変わった、と。
